コラム

「売掛金回収の法的手段」

基本は交渉
法的手段の行使は慎重に!


滞留している売掛金については、まず相手(債務者)に対して、請求書の再送付、電話、訪問などの通常の回収方法によって支払いを催促します。

●時効に注意
売掛債権は時効が2年しかなく、放っておくと、売掛金を回収できなくなります。時効が迫っているのであれば、相手に債務を承認してもらい、時効を中断させます。この場合、債務を承認した翌日から新たな時効期間がカウントされます。


【債務の承認】
債務の承認とは、債務者に債務の存在を認めさせることです。方法としては、①「債務の承認書」に署名(記名)捺印してもらう、②現在時点の債務額はいくらであるという確認書(記名押印付)の交付を受ける、③債務額の一部の弁済を受ける等があります。たとえば、100円でも支払いを受けることができれば債務の承認があったことになり、消滅時効は中断します。領収書は100円でも交付し、控えをとっておきましょう。

電話や訪問を再三したけれど、相手がいつも不在だったり、「月末までに入金する」と言っておきながら、結局支払わないようなときには、内容証明郵便の送付が考えられます。
内容証明郵便とは、郵便局で「○月○日に、どのような内容の手紙を出した」ということを公的に証明するものです。内容証明郵便は、書留にして、相手に郵便が配達されたことを証明する配達証明付きにします。

[メリット]
・相手に心理的なプレッシャーを与え、返済を促すことができる
・主張内容、請求内容の記録保存ができ、後日、訴訟になった際の証拠になる
・費用は書面の枚数によって異なるが、定形郵便料金(80円か90円)+一般書留420円+謄本1枚420円(1枚増すごとに250円増)+配達証明300円

[デメリット]
・法的強制力がない
・脅迫めいた文章を書くと、それが証拠になって不利になることもある


電話をかけたり、内容証明郵便を送ったり、様々な手を尽くしても、どうしても売掛金が回収できないときは、専門家と相談のうえ法的手段を検討することになります。法的手段としては、以下のようなものがありますので、知識として知っておくとよいでしょう。
*法的手段の費用例には弁護士費用などは含まれていません。

『即決和解(訴え前の提起)』
債務者と債務者の間に、債務額、支払い時期、支払い方法等について合意がある場合に、簡易裁判所の裁判官の前で合意内容を「和解調書」という書面にする手続きです。即決和解の申立てに際しては、当事者が合意さえすればどの裁判所においても申立てをすることができます。

[メリット]
・訴訟ではないが、判決と同一の効力がある
・裁判所での和解なので和解内容が履行(遵守)される可能性が高い
・公正証書よりも費用が安い(2000円+裁判所から関係者への郵便費用)

[デメリット]
・裁判所に出頭しなければならないため、債務者が抵抗を感じ、和解がまとまらないこともある
・申立てから和解成立まで最低でも1~2ヶ月程度はかかるので、その間に債務者が変わるおそれがある


『民事調停』
公正証書とは、公正役場で公証人によって作られるものです。支払内容について合意がある場合に、合意内容を契約書として公正証書にしておくと、当事者間の書面よりも、証拠力が高くなります。公正証書に、「強制執行認諾文言」*をつけることで、裁判(訴訟など)をしなくても、公正証書だけで強制執行をすることができます。
*債務者が契約どおりに履行しなかったら、直ちに強制執行をすることができます。
*債務者が契約どおりに履行しなかったら、直ちに強制執行を受けてもよいという文書のこと

[メリット]
・裁判所に出頭する必要がないので、債務者の理解が得られやすい

[デメリット]
・即決和解より費用がかかる
*費用は金額によって異なりますが、基本は債務金額が100万円以下なら5000円です。


『支払催促』
支払催促とは、裁判所から債務者に支払うように命令を出してもらう制度です。債務内容や事実関係に争いはなく、単に支払ってくれないという場合に有効です。相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申立てを行います。

[メリット]
・裁判所から送られる支払い催促に対して、債務者が2週間以内に異議申立書を提出しないと債務者は債務者の財産に強制執行することが可能になる。
・費用は債務金額で異なるが、例えば、50万円なら2500円、100万円なら5000円

[デメリット]
・債務者から異議が出れば、通常の訴訟に移行してしまう


『少額訴訟』
少額訴訟とは、60万円以下の売買代金請求や賃金訴訟などの金銭の支払いを求める場合に限り利用することのできる特別な裁判制度です。話し合いの余地がない、支払催促ができないなど、他の手段では解決が難しいときの方法として考えられます。原告の言い分が認められる場合でも、分割払い、支払猶予、遅延損害金免除の判決がされることがあり、和解による解決もあります。

[メリット]
・1回の期日で審理が終わり判決が出るので、通常の訴訟よりもはるかに迅速である
・費用も安い(債権金額が50万円であれば、5000円+訴状の送達・判決・呼出状など郵送代)
・訴訟すれば、強制執行で回収できる

[デメリット]
・相手が少額訴訟に同意しなければ、通常の訴訟に移行してしまい、時間と費用(特に弁護士費用など)がかかる
・勝訴しても、相手に財産がなければ回収できない


法的手段は、取引先との関係を悪化させ、その後の取引ができなくなるおそれもあります。まずは交渉での解決を心がけるべきですが、やむを得ない場合は適切に法的手段を活用して解決をはかることも必要になります。
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