コラム

「中小企業金融円滑化法の要点と対策」

■すべての貸出が返済猶予されるわけではない
中小企業金融円滑化法は、金融機関に対して、中小企業等から返済の負担軽減の申し込みがあったときに、親身に相談に乗り、その会社の事業改善や再生の可能性、経営力などを総合的に審査して、返済計画策定の助言や条件変更後のモニタリングを求めたものです。
この法律によって、「すぐにも月々の返済を待ってくれるのでは…」との期待を持った方も、誤解してはいけないのは、すべての貸出に対して、一律に返済猶予等を決めた法律ではないということです。
法律施行に伴い改定された「監督指針」「金融検査マニュアル」によれば、あくまで、金融機関と今後の「経営改善計画」「返済計画」を検討した上で、その実現に必要な貸付条件の変更等(※)を行うことを求めています。
また、経営改善計画がなくても、1年以内に計画を策定できる見込みがあれば、先に貸付条件の変更等を行った上で、金融機関と一緒に計画作成の検討を行うとされています。
貸付条件の変更を受けた場合には、今後の新規融資は受けられなくなるのか?

金融庁パンフレット「中小企業の事業主の皆さんへ!」によれば、個別の融資は各金融機関が、借り手の信用力等を踏まえて判断しますが、金融庁も貸付条件の変更等の履歴があることのみを理由に新規融資を拒絶することがないよう、金融機関に対する検査・監督で検証するとしています。

※貸付条件の変更等には、元本返済以外にも、例えば返済期間の延長、旧債の借り換え、債務の株式化など債務の弁済負担の軽減のためのすべての措置が含まれます。
■中小企業は積極的に情報開示や財務報告をすること
また、金融機関に「経営指導、経営相談をすること」を求めていますが、これは、資金繰りがどうすれば円滑になるかを助言しなさいという意味であり、計画作成後は、金融機関がモニタリングによって計画の進捗状況を確認していくことになります。
そのため、借り手である中小企業も、自社の経営状態等をしっかりと把握して、経営者が自分で金融機関に自社のの現状、将来の見通し、財務状態を正しく説明することが必要になってきます。
企業が金融機関に借入金の貸付条件の変更等を求めるときには、実現可能性の高い「経営改善計画」「経営再建計画」を策定していれば、条件変更等を行っても「不良債権とみなさない」とされていますが、計画がなくても、1年以内に計画を策定する見込みがあれば、不良債権とはみなさないとしています。
つまり、「経営改善計画」がなくても、最長1年の間に実現性の高い「経営改善計画」を作ればよいことになります。ただし、この適用を受けるには、金融機関が下記のような経営改善の具体的根拠を確認できること、さらには経営者に経営改善計画を作成し、それを実現する意思があることが前提となっています。
①資産の売却等によって財務内容を健全化することができる
②まだまだ経費や役員報酬を削減できる
③新商品開発や販路の拡大によって売上アップが期待できる
④その会社の技術力や販売力、成長性から時間をかければ改善可能と判断できる

■経営改善計画を確実に実行すること
金融機関に条件変更を申し出て返済猶予等が始まってから1年以内の間に、経営改善計画を作成・実行することになりますが、経営改善計画を計画倒れしないために、前年の決算において、できるだけ会社の贅肉をそぎ落としたスリムな決算を行うことが望ましいといえます。これは、経営改善計画がスタートした後になって、赤字が顕在化しないようにするためです。

■決算書の中の贅肉を落とせないか
①回収見込みのない長期売掛金を貸倒処理する
②販売見込みのない不良在庫等を処分する
③陳腐化設備、含み損のある固定資産等を処分する


仮に、前期の決算で贅肉をそぎ落としたことで、債務超過になったとしても、平成20年11月の「金融検査マニュアル別冊」改定によって、経営改善計画の実行について、「5年から10年の間に『要注意先』『正常先』になればよい」と緩和されていますので、この期間内に経営改善計画を実行して、ランクアップを目指します。
返済猶予を含む貸出条件の変更を受けるために求められている「実現可能性の高い経営改善計画」を作成・実行することは、決して容易なことではありません。
まず、スリムな決算書をベースにして、自社の強み、たとえば営業力、技術力、経営者の財産、資質などの要因に基づいて実現可能な計画を作り上げていきます。「金融機関に見せるため」という発想ではなく、「会社の未来のために本当の経営改善に挑戦する」という意志で作成することが重要です。
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