コラム

「操業停止に伴い社員を休ませる場合の休業手当」

東日本大震災や計画停電等によって、企業が操業できない状況になった場合の対応として、従業員を自宅待機として休業させたとき、「休業手当」はどうしたらいいのでしょうか。

被災地域では、事務所や工場の全壊や一部損壊によって、操業できない状態にある企業が少なくありません。
また、首都圏でも、計画停電等による影響が出たり、西日本の会社でも支社や営業所、取引先等が東北地方にある企業に影響が出たようです。
操業、営業が困難になり、社員を自宅待機として休業させる場合の「休業手当」について、被災地域、計画停電等の影響があった地域、その他の影響があった地域ごとに見ていきましょう。

1.被災し、操業ができない場合

ケース①
●工場が全壊して操業できる状態にない。
●トラックや材料が被害を受けて操業できない。

地震や津波が原因で社員が通勤できなかったり、休業を余儀なくされる場合は、使用者の責任にあたらず不可抗力によるものと考えられます。この不可抗力によるかどうかの判断には、以下の2点がポイントになります。

①事業の外部要因によって発生した事故であること
②経営者として最大の注意をしてもなお避けることのできない事故であること

したがって、災害が直接の原因となる休業は、原則として休業手当を支払う必要はありません。
しかし、自宅待機をさせる際には、社員とよく話し合い、「中小企業緊急雇用安定助成金」などの公的支援策を積極的に活用するよう心がけましょう。
2.停電などで操業できない場合

ケース②
●自動車部品を作っている会社だが、計画停電で工場が稼働できない。
●事務職だが、停電でパソコンやOA機器が使えないため仕事にならない。

関東地方では、地域によって停電が実施され、操業がストップする事態がありました。
会社や工場に電力が供給されず、事業がストップした場合は、原則として、休業手当を支払わなくても労働基準法違反になりません。
しかし、計画停電の実施に伴い、停電となる時間帯以外の時間帯を含めて1日全部を休業した場合、原則としては計画停電の時間帯以外の時間帯については、休業手当を支払うものと判断されます。
ただし、他の手段の可能性や休業回避のための努力等を総合的に勘案して、計画停電の時間帯だけを休業させることが経営上著しく不適当な場合には、休業手当を支払わなくてもよいとされています。
対策として、停電中は梱包など電気を使わない作業を行ったり、平日を休日にして、停電の影響の少ない土・日曜日を出勤日にしている企業もあります。

3.取引先の被災により操業停止を余儀なくされた場合

ケース③
●関西の建築資材卸会社だが、仕入先が東北地方にあり、資材が届かず出荷できない。

一般的に、メーカーから原材料が入ってこないために休業したといった場合は、
会社の施設は直接的に被害を受けていないため、会社の都合となり、休業手当を支払う必要があります。
しかし、取引先への依存の程度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間、休業回避のための具体的努力を総合的に勘案し、個別的に判断していくものと思われます。

休業回避のための具体的な努力とは、例えば、機械製造の会社が、東北地方に機械部品をお願いしている場合、他の地域に部品を頼めないかどうか、他の代替品で対応できないかを検討するなどです。

4.震災の間接的な影響によって休業した場合

ケース④
●震災の影響で注文がキャンセルされたため、社員を休ませた。
●震災後の自粛や風評によって、宿泊予約のキャンセルが相次ぎ、ホテルを休業せざるを得なくなった。

震災が直接の理由ではなく、震災の影響を判断した結果、自宅待機や店舗・事務所を休業するといった間接的な理由で社員を休ませた場合は使用者の責任となり、休業手当の支払いが必要になると考えられます(一日の内の一部の休業についても対象になる)。
その他、社員を休ませたりしなくてはいけない場合は、有給休暇が残っていれば、有給休暇をとってもらう、稼働時間を調整し、時間を短縮して働いてもらう、といった対応が考えられます。

※厚生労働省「平成23年東北地方太平洋沖地震に伴う労働基準法等に関するQ&A(第2版)」(平成23年3月31日版)


▼今日のワンポイント実務

休業手当とは?
労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」と定めています。
つまり、会社の都合で休ませた場合には、平均賃金の60%以上を支払う必要があるのです。
休業手当の不払いに対しては、未払金の支払いは当然ながら、30万円以下の罰金が科されるほか、裁判所により未払金と同額の付加金の支払いが命じられる場合があります。
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